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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2737号 判決

控訴人 畠山淳一

右訴訟代理人弁護士 関根俊太郎

同 二宮充子

同 大内益彦

被控訴人 不二サツシ販売株式会社

右訴訟代理人弁護士 江橋英五郎

同 鈴木宏

同 結城康郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。債権者を控訴人及び被控訴人債務者を訴外株式会社ニユーフロンテイアとする東京地方裁判所昭和四七年(リ)第一二七号債権配当事件につき作成された配当表中被控訴人に対する配当額を取消し、右金額七八万四〇七五円を控訴人に配当する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実に関する陳述及び証拠の提出、援用、認否は、以下の通り付加するほかは、原判決事実摘示の通りである。

控訴代理人は、

(一)被控訴人を申立人(債権者)、訴外株式会社ニユーフロンテイアを債務者及び訴外東海興業株式会社を第三債務者とする本件手形債権に対する仮差押命令申請事件につき、東京地方裁判所は昭和四六年一一月一五日仮差押決定を為し、右決定正本は同年同月一六日右東海興業株式会社に送達されたが、本件手形につき除権判決が為されたのは、昭和四七年二月一〇日である。

(二)而して、民事訴訟法第七四九条第二項の規定により、仮差押命令の執行は、右命令言渡の日又は右命令が申立人に送達された日より一四日以内でなければ、これを為し得ないことが明らかであるが、本件仮差押命令言渡後一四日以内には未だ除権判決の言渡がなかったから、執行官が手形を占有しない限り右仮差押は効力を生じないし、除権判決が言渡された昭和四七年二月一〇日には右仮差押命令の執行期間を経過し、執行不可能となっていたから、本件仮差押命令はその効力を生ずるに由ないものである。

と陳述し、甲第一号証の一乃至四を提出した。

被控訴代理人は、

控訴人主張の右(一)の事実はこれを認めるが、同(二)の主張はこれを争う。本件仮差押債権は、単純な手形債権ではなく、公示催告の申立が却下されることを解除条件として、除権判決によって債務者たる訴外株式会社ニユーフロンテイアが第三債務者たる訴外東海興業株式会社に対し、本件手形を所持しないで権利を行使し得べき手形債権であって、その本質は通常の指名債権と異ならず、その仮差押の執行は仮差押決定正本を債務者及び第三債務者に送達すれば足り、執行官による手形の占有を必要としないものである、と陳述し、甲第一号証の一乃至四の成立を認める、と述べた。

理由

当裁判所は、当審における新たな弁論及び証拠調の結果を斟酌するも、控訴人の本訴請求は失当であって棄却すべきものと判断するが、その理由は、原判決の理由中の説明と同一であるからこれを引用するほか、以下の説明を付加する。

被控訴人の訴外株式会社ニユーフロンテイアに対する本件仮差押は、右訴外会社が東京簡易裁判所に公示催告の申立をなした右株式会社ニユーフロンテイアの訴外東海興業株式会社に対する約束手形金債権を対象とするものであることは、成立に争いのない乙第一号証によって明らかであり、かつ右仮差押決定が昭和四六年一一月一五日に為され、同決定正本が同年同月一六日右東海興業株式会社に送達されたこと及び右株式会社ニユーフロンテイアの申立にかかる公示催告の結果、昭和四七年二月一〇日本件手形につき除権判決が為されたことは、当事者間に争いがない。

右の通り、本件仮差押は、株式会社ニユーフロンテイアの申立による公示催告中の約束手形金債権を対象とするものであって、右公示催告の結果除権判決が為された場合には、同会社において手形を所持せずに右手形金債権を行使し得るものであるから、かかる性質を有する債権の仮差押の執行は、除権判決が為される以前においても執行官による手形の占有を必要とせず、通常の指名債権に対する仮差押と同じく仮差押命令を債務者及び第三債務者に送達すれば足りるものと解するのが相当である。

されば、本件仮差押命令は民事訴訟法第七四九条第二項の規定する一四日の期間内に適法に執行されたことが明らかであり、除権判決以前においては執行官による手形の占有を必要とし、除権判決後に指名債権と同様の執行方法によって仮差押を為し得るに至るとの前提のもとに、本件仮差押命令は執行期間を経過したため執行不能となり、その効力を生ずるに由ないものであるとの控訴人の主張は、失当たるを免れない。

よって、原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条第一項の規定により本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条及び第八九条の規定を適用し、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 平賀健太 裁判官 輪湖公寛 後藤文彦)

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